日博協研究協議会での会計制度勉強メモ

2014年1月30~31日、大阪市立自然史博物館にて、公益財団法人日本博物館協会H25年度研究協議会テーマ2「多様化する博物館の理念と制度―『対話と連携の博物館』の総括(1)」が開催され、参加して来た。このうち、本ブログでは、協和監査法人の高山昌茂先生の情報提供「会計制度から見た博物館『多様な博物館制度のメリットと課題』」から学んだことを、当日のメモをもとに再現した。

高山先生のお話は、会計の大きな仕組みを分かりやすく説明して下さる点で大変貴重だ。ただし、メモを取ってる私の知識が、数年前にとった簿記3級の知識も遙か遠くの状態(しかも、計算と暗記に苦しみ、会計の大枠がちっとも分かっていない状態)なので、多々、聞き間違い、勘違いがあると思う。その点はご容赦下さい。文責は全て瀧端にあります。なお、途中、理解が及ばなかった点は、補足URL等を付けてあります。

ーーー以下、高山先生のご講演のおおよその内容&補足URL(*)ーーーーー

多種多様な博物館を会計制度がどう支えていくか。会計制度にはその裏に理念があり、その理念が設置主体とマッチしているのかを見ていき、提言に繋げたい。

博物館の評価、最終的には文章で「こういういいことをやりました」を書く。企業でいうと事業報告で、それを支えるものとしての数字が出る。数字だけでは分からない、「催しをやって何百万円」。それを補うものが文章。数字だけだと、何をやったか分からない。

科博の臨時評価委員をやっているが、科博の催しものは必ず見に行く。状況を頭の中に入れて、1年後評価委員会の際に文章を読み、自分のイメージと文章を照らし合わせ、こういうことを訴えたかったのかと初めて分かる。いつも会計が全てと思っていたが、主体を評価する時に文章の力が必要と。 

 *科博の24年度評価 http://t.co/YjvgXz3fdN

地方公共団体の場合】

評価のもう一つの側面は会計で、制度の主体によって準拠すべき会計基準は分かれているが、地方公共団体の準拠すべき会計基準は実はこれというものがない。公会計で予算歳入歳出があって議会に諮ってOK貰うが通常だが、日本が借金だらけになったのはなぜか根源的に考えていくと会計だったと。

会計の世界はストックとフロー、ストックは今財産がいくらあるか、返さなくていいか貸借対照表で見る。左に財産を羅列、右に負の資産(借金)と税収、税収は返さなくていい。公会計の場合、負の資産の考え方がなく、収入は借金と税収を分けないといけないが、借金ばかりが増えていく。

借金は財産目録、棚卸で捉えるが、記録が不十分でストックをキャリーしていく考え方がなかった。国も貸借対照表を作り始めたが中々うまくいかなかった。毎年、漏れていましたの記事が出る。総務省が会計モデル(複式簿記)を作り、借金を見ていこうと。基準モデル→総務省改訂モデルを作った。 

 *貸借対照表の作成方法-棚卸法と誘導法- / “Prepararion of Balance Sheet” http://t.co/lJrKb5P94e

地方公共団体の61%程度が総務省改訂モデルを採用。現金主義である現行会計基準でもたらされる情報に追加して、発生主義複式簿記を導入し、これまで認識されなかった情報を見せる、ちゃんとした貸借対照表が出来た。あるいは行政コスト計算書、損益計算書的手法の計算書を作っている状況。

 *地方公共団体のバランスシート等の作成状況調査 / “総務省(地方公会計の整備)” http://t.co/jFBvyhjH01

 博物館は地方公共団体の一つで、行政コスト計算書は博物館の部分を示している訳ではない。社会教育費の中に入っているので、博物館がどれだけ頑張ったか見せないといけない。決算内容をブレークダウンして事業別施設別行政コスト計算書を作る。しかし博物館で公表例は少ない。

独立行政法人の場合】

独法会計基準企業会計の考え方をかなりを入れている。貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、行政サービス実施コスト計算書も入れ、どれだけコストがかかっているかを示す。企業会計の場合、利益追求が主で国に税金を払って社会貢献をする、利益をもたらさないものは撤退する。

企業会計の中には、自動的に進出するか撤退するかの意志判断が入っている(自動安定化装置、ビルト・イン・スタビライザー)。ただ、独法会計は中期計画を立て、どれだけ計画に沿った活動をしたかを見ていく所が特殊。決算、利益追求も考えているが計画を表す予算の重視をなお続けている。

企業会計は収入ー費用=利益だが、独法会計は費用ー財源=税金(足りない分は税金)だ。科博の場合、頑張って収入を上げると、結果交付金を減らされる。これは辛いものがある。今の日本の借金を考えると補助金交付金が出せないので、維持するため、減額されないために頑張りましょう、と。

公益法人の場合】

公益法人会計基準は、これまで予算準拠主義だったが、無駄遣いが批判され今回の大改正になった。損益計算体系を考え、国際会計基準を取り入れた、ある意味、先進的な会計基準になっている。H16年度の会計基準改正で実現され、さらにあらたな新法(公益法人三法)施行に伴い修正された。

公益法人会計基準は寄附者の意志をどう分別するかに主眼を置いている。寄附、補助金を出したらそれは指定正味財産で拘束し、寄附者の意志をどう解除していくか、このように使ってくれというのを使うまで必ず拘束するという会計基準。館は古い財産の寄附者の意志を確認する作業をしたと思う。

寄附者の意志を明確にしないと、公益認定が取り消しになった時、財産が没収される可能性があるから、不可欠特定資産(=没収されない)を明示して公益認定を受けにいった。不可欠特定資産の判定は、例えば収蔵庫がダメな館も認められた館もあり、判定委員の中でもバラツキがあった。

【各制度の今後の課題】

各制度の今後の課題;財源の確保が大変、歳出が抑えられる中で会計制度がないとPRが難しい、会計制度はサポーターを説得するためのツール。地方公共団体の場合は議員を説得。情報発信が必要。評価委員は基本的には中立だが、ある意味、サポーター的になって貰って育てて貰う。

中期経営計画の中に人件費15%削減が入っていた事例がある。正規職員が減って非正規が増えていた。会計で15%下がるということは質が15%下がることだと考えてほしい。公益法人の場合は、もう補助金は出せないので寄附で賄って欲しいというのが今回の法改正の裏にある。

今回の公益法人税制で公益事業やっていれば無税、を国税庁から勝ち取った。寄附を集め、税金を投入しなくてよいという意味での貢献。公益を取ると所得控除が取れ、パブリックサポートテスト(3,000円100名以上の寄附を集めているか)に合格するとより有利な税額控除を使える。

 *パブリックサポートテスト(PST)http://t.co/LRYAv8AFXc

 *公益法人に対するPST要件;http://t.co/8cQYeU72SU

公益法人制度で寄附を拡大出来たか内閣府に調べて貰ったら、公益法人の60%超が100万円以下、20%がゼロで新しい制度を作った趣旨が貫徹されていない。博物館美術館の場合収集家から寄附して貰える可能性があり、その意味でもPSTに合格すると将来寄附を得られる可能性がある。

 *所得控除と税額控除(公益法人に寄附をした個人に対する税制優遇)http://t.co/V71ZHJoVVd 

 *税額控除対象法人の検索(66公益法人しかない)http://t.co/PpypQp5PNe

 *ミュージアム系だと、徳川ミュージアム、冷泉家時雨亭文庫市川房枝記念会女性と政治センター

 *税額控除対象公益法人になると、「税額控除に係る証明書」がネット上で簡単に手に入るという仕組みがすごい。例えば、徳川さんのだとこんなかんじ。http://t.co/LoTBB9eSqd 

【提言】

評価は内部評価・外部評価以外に一般の国民の評価もある。会計を開示し、会計だけだと意志決定を誤るから必ず事業の報告を書く。各事業者はHPを作っているがうまく表現されていない。日博協はトータルで開示を引き受けるサイトを作り、博物館美術館の知名度を上げてほしい。

開示に消極的な館には、内閣府に対し、開示請求が来た事例がある。世間の目にさらされていることを肝に銘じる。何度も言うが、会計の数字だけでは誤るので、数字+事業の性格を分かりやすくコンパクトに開示する必要がある。

ーーーーーーーー以上、ご講演内容のメモ終わりーーーー

日博協の現在の体力では、高山先生のご提言にある「トータルな会計情報&文章による事業報告」を集約したサイトを日博協が持つ、というのは、残念ながらまず無理だと思う。日博協をどうしたらいいのか問題は相当に深刻だと思うが、こういうお話を聞ける機会を広く提供できる(会員外参加可)ほぼ唯一の団体だという点は大いに強調しておきたい。