シンポジウム「動物園でアニマルウェルフェアを科学する」

3月29日(金)、応用動物行動学会・日本家畜管理学会・農業施設学会共催 2013年応用動物行動学会・日本家畜管理学会共催シンポジウム「動物園でアニマルウェルフェアを科学する」にお邪魔しました。(会場:安田女子大学

http://www.jsaab.org/pg42.html

このシンポが開催されることは、Twitter上で知りました。最近は大概の催し物は、Twitterで知ります。一般にも公開されているようで無料とのことなので、思い切って行ってみることにしました。この日の安田女子大は、畜産関係の合同学会開催という感じだったのでしょうか、家禽学会という看板も立っていました。

それはさておき、学会内のシンポなので、どこまで書いていいのかなと思うところもあり、簡単な紹介にとどめます(と言いつつ、結構書いてしまいました)。あくまで私のメモによるまとめですので、誤解等ありましたら、お許し下さい。ご指摘いただければ訂正いたします。

話題提供者は、小倉匡俊さん、山崎彩夏さんのお二人。最初に、今回の企画は若い人に任せた、といったお話が(確か司会の方から)ありました。

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・小倉匡俊さん(京都大学野生動物研究センター):動物園で科学する-研究の場としての動物園ー

この1年、動物園で研究して来た。動物園では、野生環境では無理な、出産と発達の経過を調べることが出来る。希少な事例の研究などは野生では不可能で動物園ならではの研究テーマだ。また、園をまたいだ研究で事例を集積するのも、外部からの研究者の役割と言える。従来、紙ベースで記録してきた記録は、そのままでは分析にかけるのが難しいが、動物園に埋もれたデータを活用するため、コンピュータープログラムを作って提供した。動物園は研究のネタが豊富で、研究課題が眠っている、飼育担当者からの情報が得られる、希少種の研究が出来る⇒動物園はよい研究の場になる。

・山崎彩夏さん(東京農工大学):日本の動物園における環境エンリッチメントの現状と課題 SHAPE-Japanの設立報告とともに

飼育現場の人たちと環境エンリッチメント研究をやって来た。現場では実践が難しい。Animal Welfare は欧米を中心に発達、人による動物の利用を前提に、苦痛が最小限になるよう、生活の質の向上を図る。

Shepherdson(1998)は、環境エンリッチメントを動物飼育の原則としたが、種によって環境の意味は異なる。目的の設定→記録→検証→評価という、科学的な立場からの実証的なプロセスを踏む。客観的な評価を行ない、飼育に関する情報の共有化を図る。

日本では、1990年までは、知る人ぞ知る状態で、1996年に松沢先生が日本語で紹介、「どうぶつと動物園」でも紹介、2001年には市民ZOOネットワークが活動を開始した(「エンリッチメント大賞」の創設)。

これに対して、現場の反応は厳しく、行動展示パフォーマンスという誤解も生まれたが、環境エンリッチメントは、展示技術ではなく、飼育管理の技術である。動物に対して家族的なケアを行って来た日本では、システマティックに動物を管理する欧米の飼育方法に違和感があること、「野生動物」に対して操作介入することへの抵抗感があること等が厳しい反応の原因である。

環境エンリッチメントに関する正確な情報の不足(語学的な壁)、コストの問題(資金・時間・労働)、従来の飼育技術とかい離、がなかなかなじまないことの背景にある。

情報の発信、共有の手段として、SHAPE-Japan(日本支部)の立ち上げを若手中心に行った。

第13回国際環境エンリッチメント会議(ICEE)が、2013年10/15~18日に、南アのカワラタ・ゲーム・ランチで開催される。サファリ・ツアー、食事、宿泊付きで、600ドル以下に抑えるとのこと。SHAPE-Japanでは、手続きについて、必要ならば語学的サポートを行う。

・質疑応答/フロアからの意見【私が興味持った部分のみ、紹介しますが、背景知識がないので、誤解して書いているかもしれません】

Q.畜産では、動物の状態を見る方が重要。エンリッチメントが先ではなく、エンリッチメントの結果、ウェルフェアが上がったか?が問題。動物に高度な学習をさせるのと、行動の展示(が誤解されているのか?) ウェルフェアが先で、行動展示の中で動物のウェルフェア状態が変わるか? 畜産では、異常な行動がない、といった飼育者が評価している動物の状態を(保てるよう)経営者と協力してやっていく。

A.昭和50年代以降、ショーは社会的に批判を浴びた。動物をコントロールし、健康を管理するため、またどうして同じことをするのか、(と現場からは言われる)。

Q.動物園の雑多な勤務の中で研究データを取ろうとすると、他の担当動物の時間を削ることになり、他の動物のウェルフェアが落ちる。研究と飼育の両立は日本の多くの動物園では厳しい。また、研究者が動物園に来て、新たに時間を割くことに対する現場のメリットは何か?研究成果として飼育に生かす、飼育データを提供することで、学会発表の共著者にしてもうら?研究者とどうかかわるかは難しい。MやDを取って動物園に入って来る人はまだごく少数で、肩身が狭い。自分自身のモチベーションをどう維持していくか。飼育系のネットワークを作るのも一つのやり方か?

Q.動物園と家畜の大きな違いは、研究者の数が圧倒的に違う点。動物園は研究者としてやっている人は20人といない。家畜は何十倍といる。連携していく(ことが必要では?)

Q.私立大にとって、動物園は、学生を集めるのにプラスになる。6~7割が動物園の飼育係になりたい、と。動物園の授業があるから来たという学生も。潜在的な要望は多いと思う。ネットワークづくりの中から、動物園側に手を上げてもらうと(研究に)行きやすい。日々の行動観察に行く学生はいる。

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The Shape of Enrichment : http://www.enrichment.org/

International Conference on Environmental Enrichment, 2013 : http://p.tl/b3w5

松沢哲郎 1996:心理学的幸福-動物福祉の新たな視点を考える-.動物心理学研究 46, 1, 31-33.

松沢哲郎 1999 :動物福祉と環境エンリッチメント どうぶつと動物園, 51, 4-7.

市民ZOOネットワーク:エンリッチメント概論:http://www.zoo-net.org/enrichment/outline/outline3.html

SHAPE-Japan : http://www.facebook.com/SHAPE.Japan

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シンポジウム関係者の皆さま、当日はありがとうございました。大変勉強になりました。そして、南ア、サファリ付というところで、俄然、キララ~ンとなったのでした。